作品レビュー
文:谷岡正浩(音楽ライター)
イマジネーションとパッション、そしてスキルが幸福な形で結びついている。この曲は「創作」そのものをテーマにしたものだ。
タイムトンネルを潜っていくような錯覚にとらわれるイントロから匂い立つような風景描写の歌詩へとつながっていく。〈カワセミ〉〈川面〉〈白樺〉――メロディに乗った言葉とともにひとつの景色が目の前に広がっていく。そこはきっと吉田美和のなかにある原風景と重なり合う場所なのだろう。北海道池田町。十勝平野のやや東寄りにあり、十勝川の支流利別川が町を南北に貫く自然豊かな場所だ。吉田の出身地が池田町ということは広く知られている。
この新曲「Kaiju」は、2024年夏に全国公開されることが決まっている映画『カミノフデ 〜怪獣たちのいる島〜』の主題歌となっている。この映画の原作・総監督を務めたのが日本の特撮映像を支えてきた美術造形家の村瀬継蔵だ。彼もまた池田町の出身である。
ゆったりとしたメロディに雷鳴と雨の音が交じる。不穏ともいえる空気が漂う。しかしその心の揺れは決してネガティヴなものではない。どちらかというと、何か見たこともないものが出現するという期待感の方が大きい。それはまさに、創作の火種。
〈僕らは Kaijuを創った Kaijuは知られた 言葉も通じない多くの場所で〉
Kaijuは今や世界で通じる日本語のひとつとして認知されている。けれどもこの言葉は曲のなかにおいて、どこまでも自由が与えられた無形の言葉として存在している。〈Kaiju〉を何に置き換えてもいい。何かの創作物はもちろんだし、日々の生活での料理や大切な人に向けての感謝の言葉だっていい。みんな何がしかの〈Kaiju〉を生み出しながら生きている。
その言葉と同じように、この曲は、いわゆるポップスの型にはまっていない。細かいことを抜きにして言えば、メロディは一種類しかないのだ。つまりはAメロもBメロもサビもない。さらにトラックもシンプルではあるが、曲(というよりも歌詩)が進むごとにその形を絶えず変化させていく。まるで心のなかにある創造の火種が燃え広がる炎になるように。これ以上ない強さと豊かさを兼ね備えた楽曲は、吉田美和と中村正人が2人だけで緻密に構築したものであり、まさに「Kaiju」と呼ぶにふさわしい創造物になっている。ちなみに、ミックスはドリカム楽曲ではおなじみのNYのトップエンジニアが手掛けている。
冒頭の歌詩に戻ろう。
〈カワセミが 青い弾丸となって 川面にきらめき翻るのを〉で始まる詩情豊かな美しい一節は、最後の〈僕はKaijuだ Kaijuは君だ 想像/創造の羽は 誰にも渡すな〉という力強い意志に満ち溢れた言葉で締め括られる。〈カワセミ〉という現実が〈僕〉や〈君〉の生き方を通じて〈想像/創造の羽〉になる。創作の根源とその過程を描きつつ、人間として普遍の存在意義を鮮やかに示してみせる――吉田美和の表現者としての透徹した眼差しを感じる。そして、〈僕〉だけではなく〈君〉がいて〈僕ら〉であることが描かれるその歌詩にDREAMS COME TRUEというバンドの歩んできたここまでの35年を想像せずにはいられない。
この曲にはまだまだ続きがある――そう思えてならないのだ。
村瀬監督の人生や
今までの造形への思いが
ぎっしりと詰まっていました
その優しい眼差しにたくさんの人の協力が集まって
このような素敵な映画が出来上がったんですね
そして改めて「映画を作る」ということは
カミノフデを操ることに他ならないと
感じました
山崎 貴(映画監督『ゴジラ-1.0』)